恋人たちの午後
公園のベンチの二人。言葉少なげに照れながら喫茶店の二人。ショーウィンドウを覗き込む二人。
海辺の歩道話しながら歩いてる二人。自転車に二人乗りする恋人達。どこでも見かけるそんな恋人達。
しかし、この恋人達は少し違う・・・・・・・
(第一章)
二人だけのレッスン
練習場でドカドカ球を打っていると、見るからに仲良さそうなカップルが近くの打席に入った。二人ともルックスが良く周りの視線さえ集める始末。私は休憩がてら二人を眺めていました。
どうやら彼女が初心者らしく、彼が丁寧にレッスンしているのが聞こえてくる。
”まず、グリップだけど優しく小鳥を包み込むように左三本の指でギュッと握るわけ”と彼氏がレッスン。※
”持ちにくいね、クラブが飛んで行きそう”と彼女が笑う。
”ボールの位置だけど、左足踵線上が基本だからね”と彼氏が優しく彼女に言う。
”うん!”素直に頷く彼女。
とりあえず、彼女にボールを打たせてみるとゴロばかりでボールが上がらない。
”難しいー”と少しふて腐れて言う彼女。じゃースイングを教えてあげようと彼氏。
”まず、このボールの飛球線後方に真直ぐクラブヘッドを引いていく”
”次に、右ひじをたたみながらクラブを上に持ち上げて”
”トップの位置では左親指でクラブを支える感じで・・・・・”と彼氏が言うと
”えー難しい”と戸惑っている彼女。
この頃になってくると熱心で説得力のある彼のレッスンを、周りの打席の人がギャラリーになりそのレッスンを感心して聞いている。
また、彼女にボールを打たすがやはりゴロばかり。
(第二章)
一人ぼっちの帰り道
”もうっー!”と不機嫌な彼女。
”もう少し、ダウンスイングの時左足で踏込んでクラブを引っ張ってくるように”と彼氏のアドバイス。再びボールを打つ彼女。しかし、ゴロばかり。
”左脇をもう少し締めて”と彼氏
意味がわからないと彼女が言うと、スローモーションスイングを彼女に見せた。
”こうでしょ。ここでこうして。ここでインパクトで。わかる?”と彼氏が言う。周りのギャラリーはウン、ウンと納得している様子。
”今、スローモーション気味にスイングしたからボールがゴロになったけどね”と彼氏が付け足す。
私は、この時少し妙な感じがした。レッスンが始まってから1時間ぐらい経つが、彼がボールを打つ姿を一度も見ていない。
スウィング理論や素振りは素晴らしいが・・・・・・・・・・・・・
彼女も上手に出来ないから嫌気がさしてきたのか、彼氏に言った。”あなたがボール打って見せて”周りのギャラリーも見たくてたまらない。
”基本が大事だから”と彼氏が言うと、”ねえ、あなたが打つところ見たい”と彼女が願う。
散々勿体つけたあげく”よし、3番アイアンで打ってみるか”と言い、ボールを打った。
冷たい風が吹いた。打たれたボールは彼女と同じゴロだった。斜め右に転がって行った。誰の声もしない。みんな黙り込んだまま。
あれ?と言いながらクラブを5番に変えて、ボール打つ。やっぱりゴロ。続けて10球程打つが全部ゴロ。飛距離は40ヤード。
一人、二人とギャラリーが離れていく。私はめまいを感じる。
彼女が”人にアドバイスばっかりして、なによ。あんたの方が下手なくせに”と怒りの言葉。
彼氏は”今日は、調子が悪いから”と必死に言い訳するが、もう後の祭り。
”へたくそ!私もう帰る”そう言い残して彼女は帰った。周りの人は何も無かったように自分の練習を始めた。残された彼はボールも打たないに、打席にただ佇んだ。
(あとがき)
この物語の登場人物、セリフはフィクションではなく実話です。この時暑かったので、缶コーラを2本飲んでお腹がダブダブになった事をつい昨日の事のように憶えています。
この物語のセリフで※”まず、グリップだけど優しく小鳥を包み込むように左三本の指でギュッと握るわけ”とありますが、矛盾のある説明なので使用しないようにしましょう。
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